奈良地方裁判所 昭和24年(ワ)2号 判決
原告 東井家吉 外一名
被告 有限会社東亞紙器工業所 外二名
一、主 文
被告有限会社が昭和二十一年十一月二十三日奈良市林小路町四十五番地禪野佐助方において開催した臨時社員総会の(イ)社員中村富三郎を会社を代表すべき取締役社長に選任する(ロ)会社の本店を奈良市奈良阪町二千三百二十二番地に移轉する旨の決議は無効であることを確認する。
被告有限会社が同年同月二十五日前同所において開催した臨時社員総会の(イ)有限会社法第四十七條第四十八條第七十條第六十九條に依り社員東井家吉同野崎楢雄は会社を脱退し社員中村富三郎同太田垣徳次郎は会社を継続する(ロ)直ちに会社の資産及び損益を計算し残余財産あるときは出資の口数に應じて脱退した社員に分配する旨の決議は無効であることを確認する。
原告両名の被告有限会社に対する其の余の請求を棄却する。
原告両名の被告中村富三郎同太田垣徳次郎に対する請求をいずれも棄却する。
訴訟費用中原告両名と被告有限会社との間に生じた分は被告有限会社の負担、原告両名と被告富三郎同徳次郎との間に生じた分は原告等の負担とする。
二、事 実
原告両名訴訟代理人は、被告等は原告両名に対し被告会社の主文第一項掲記臨時社員総会の(イ)(ロ)及び(ハ)社員太田垣徳次郎を会社の会計事務担任者に選任する旨の決議及び主文第二項掲記の同臨時社員総会の決議の無効であることを確認する。訴訟費用は被告等の負担とする旨の判決を求め、其の請求の原因として、原告両名及び被告中村富三郎同太田垣徳次郎はいずれも紙器製造販賣業を営んでいたところ、戰時中政府の企業整備方針に順應するため、各自の営業を合同して会社組織とするため昭和十九年六月十日紙器製造並びに之に附帶する一切の業務を目的とし商号を有限会社東亞紙器工業所と称し、本店を奈良市元興寺町三十九番地に置き、出資一口の金額百円総出資口数百口資本の総額一万円とする有限会社を創立し、同日設立登記を了え原告東井家吉が会社を代表する取締役社長に原告野崎楢雄、被告中村富三郎が各取締役に、被告太田垣徳次郎が監査役にそれぞれ就任し、以來会社の業務を執行して來たのである。原告両名が誠実に会社に勤務したが被告中村同太田垣両名(以下被告両名と略称する)において会社の業務に協力しないで徒らに苦情を述べるところから、原告両名と右被告両名との間に軋轢内紛を生じ、互に善処を計るため昭和二十一年十一月十九日奈良市林小路町四十五番地弁護士禪野佐助事務所において臨時社員総会を開催し、社長原告東井が議長となり協議したが協調至難で原告野崎が会社の解散を提議したけれども被告両名が同意をしないので決議に至らないで散会した。次で同月二十三日総社員出席の上臨時社員総会を前同所において再開し、被告両名の代理人弁護士禪野佐助から取締役及び監査役は総て重任し前同様取締役中村富三郎を会社の代表取締役社長に互選し、社員太田垣徳次郎を会計事務担任者に各改選すべきことを提案したが、原告両名が右役員改選に不同意を唱えたので定款に定める決議手続により採決に入らずして散会した。そこで訴外禪野佐助が同月二十五日午後三時頃原告東井方に來宅し、原告東井及び居合せた原告野崎の両名に対し前記役員改選を記載した決議書を押付け署名押印を要求したが、原告両名がこれを拒絶したので同弁護士が右役員改選案を付議すべく同日夜俄かに社員を招集し、総社員出席の上臨時社員総会を開いた。原告両名は右決議事項につき採決を拒否し会社の解散を提議したが調わず遂に会議が決裂したところ、被告両名はあくまでも会社財産を壟断しようと企て訴外禪野が原告両名の憤懣亢奮に乘じ、原告両名に会社を脱退した旨記載した決議書を押付け原告両名は有限会社の規定に依り会社を脱退したのであるから、即座に署名捺印せよと迫つたので法律知識のない原告両名は前後を弁えずに不本意ながらこれに署名拇印するの余儀なきに至つたのである。しかるに被告両名は議事手続に関する会社定款第二十二條、第二十三條に違反し、昭和二十一年十一月二十三日の臨時社員総会において被告中村が議長となり議案を付議し、総社員一致して請求の趣旨記載の各決議をした旨及び同月二十五日の臨時社員総会において同様被告中村が議事を主宰し、主文第二項掲記の決議をした旨いずれも前記社員総会における議事経過の事実に反する虚僞の各議事録を作成し、これに基いて同年十二月二十三日被告中村が同月十八日会社を代表すべき取締役に就任し、同日本店を奈良市奈良阪町二千三百二十二番地に移轉した旨及び取締役東井家吉同野崎楢雄は同月二十五日辞任した旨の各変更登記を経由した。しかしながら昭和二十一年十一月二十三日臨時社員総会においては代表取締役及び会計事務担任者改選の議案につき協議調わず、又本店移轉の件は終始議題とならず、前者につき同月二十五日の社員総会に議事を持越されたのであるが、結局決議未了に終つたのである。又取締役原告両名が会議決裂後に始めて会社脱退に関する決議書に原告両名の署名拇印を取られたけれども、右は適正な決議ということができないから、右各臨時社員総会の決議はいずれも法律上不存在に帰し無効である。仮りに後者の原告両名脱退の決議が形式上成立したものとするも、元來有限会社には社員の脱退、即ち持分の拂戻を受けて退社することは事由の如何を問わず法律上許されないのであつて、特別決議方法によるも有限会社法の公益規定に違反し有効に議決することができないのである。從つて叙上各臨時社員総会の決議は結局法令及び定款の規定に違反し法律上無効であり、原告東井は被告会社の代表取締役社員、原告野崎は取締役社員の地位を有するものであるから、いずれも取締役の資格において被告会社に対しては有限会社法第四十一條商法第二百五十二條に則り右各決議の無効確認を求めると共に該決議の有効であることを主張し、原告両名の権利を侵害しつつある被告両名に対しても同様即時無効確認を求めるにつき法律上の利益を有するから同様の確認を求めるため本訴に及ぶと陳述した。<立証省略>
被告等訴訟代理人は、被告会社の本案前の抗弁として原告両名は現在いずれも被告会社の取締役たる地位を有しないから、監査役が被告会社を代表して應訴する資格を有しない。從つて監査役太田垣徳次郎を代表者として被告会社に対し提起した原告等の本訴はいずれも不適法である。よつて原告等の被告会社に対する訴を却下する、訴訟費用は原告両名の負担とする旨の判決を求める旨申立て、本案につき被告等はいずれも原告両名の請求を棄却する、訴訟費用は原告等の負担とする旨の判決を求め、各答弁として被告有限会社が原告等主張の事情の下に其の主張の日時其の主張のような目的、商号、組織の下に創立せられ、原告東井が会社を代表する取締役、原告野崎、被告中村の取締役、被告太田垣が監査役にそれぞれ就任し、設立登記を経由して事業を開始したこと並びに原告主張の各日時臨時社員総会が開催され全社員出席したことは認めるけれども其の余の原告主張事実を否認する。昭和二十一年十一月二十三日及び同月二十五日の各社員総会においていずれも原告主張の各事項につき決議の方法並びに内容において適法な決議がなされこれを無効にすべき何等の瑕疵も存しないから、原告等の本訴請求は失当であると陳述した。<立証省略>
三、理 由
被告会社は本案前の抗弁として、原告両名はいずれも被告会社の取締役たる地位を失つたから、被告会社に対し訴を提起する場合被告会社の取締役が会社を代表し、監査役太田垣徳次郎は会社を代表し應訴すべき権利義務を有しない。從つて被告太田垣を被告会社の代表者として提起した原告両名の被告会社に対する本訴はいずれも不適法として却下さるべきであると主張するから、按ずるに有限会社法第四十一條商法第二百五十二條に依れば有限会社法の社員総会の決議無効確認の訴は、有限会社法第四十一條商法第二百四十七條所定の決議取消の訴の場合と異り出訴者の資格を限定しないから、社員、取締役のみならず決議につき法律上利害関係を有する第三者も右訴を提起できること勿論であつて、本訴のように取締役原告両名の解任及び社員たる地位の喪失せしめる社員総会の決議が無効確認訴訟の目的である場合、原告等が該決議が法律上無効であり依然取締役たる地位を有する旨主張し、其の資格において右決議無効確認の訴訟を提起するとき一應原告等の訴において主張するところに從い訴訟の公正を担保する有限会社法第三十四條商法第二百七十七條が適用され監査役が取締役に代り被告会社を代表するものと解すべきである。從つて監査役太田垣徳次郎を被告会社の代表者として提起した原告両名の本訴はいずれも適法であるから、被告会社の右抗弁は理由がない。本案につき原告両名及び被告両名がいずれも紙器製造販賣業を経営していたところ、戰時中政府の企業整備方針に順應して各自の営業を合同して、昭和十九年六月十日原告等主張の目的、商号、資本総額、出資一口の金額等の組織を以て被告有限会社の設立登記をし、原告東井が会社を代表する取締役社長に、原告野崎被告中村が各取締役に、被告太田垣が監査役にそれぞれ就任し被告会社事業を開始したこと、昭和二十一年十一月二十三日及び同月二十五日原告等主張の場所で臨時社員総会が開催され総社員出席したことは原告両名と被告会社との間に爭がなく成立に爭がない甲第九号証並びに各原本の存在並びに成立に爭がない同第七第八号証の各一乃至三の記載に依れば、右十一月二十三日の臨時社員総会において主文第一項掲記の決議、同月二十五日の臨時社員総会において主文第二項掲記の決議がなされたものとして、右各社員総会議事録に基いて同年十二月二十三日被告中村富三郎が同月十八日会社を代表すべき取締役に就任し、同日本店を奈良市奈良阪町二千三百二十二番地に移轉したこと、同年十一月二十五日原告両名が取締役を辞任したことの各変更登記のなされたことが認められる。
よつて右各臨時社員総会の決議が法令並びに定款に違反するか否かにつき按ずるに成立に爭がない甲第一号証成立並びに原本の存在に爭がない甲第五第六号証及び証人柏木正二、同中井長三郎同東井敬介の各証言、原告両名本人の各供述並びに被告本人中村富三郎の証言一部を合せ考えると、原告東井家吉が代表取締役社長として被告会社の業務を主宰したが、戰時中原料資材の統制を受け事業成績振わなかつたことに原因して被告両名が会社経営に冷淡であつた間業務並びに会計の報告を怠つたため、被告両名より経理の内容を明確にすべきことを迫られて紛爭をかもし、被告両名が解決方を委任した弁護士禪野佐助より業務並びに財産状況を明確にすることを求められて種々折衝の上、昭和二十一年十一月十九日奈良市林小路町四十五番地同弁護士事務所において臨時社員総会を開き被告両名の代理人である禪野弁護士より被告中村を代表取締役社長に、被告太田垣を会計事務担任者に、原告東井を監査役に役員改選すべき旨提案されたところ、原告両名が應ぜず原告野崎が会社の解散を要求したため、採決手続に入らずして流会となり、同月二十三日改めて前同所において総社員出席の上臨時社員総会を開催し、禪野弁護士より取締役監査役の重任の件に併せて前記役員改選の議案を提案したところ、原告両名は前者につき同意したが役員の改選を拒み解散案を固執したが、被告両名が同意しないままに定款第十九條第二十條に定める議決方法により可否を決しないままに再び流会したところ、同月二十五日夕刻禪野弁護士が原告東井居宅を訪れ、原告東井及び居合せた原告野崎に対し前記役員改選の決議書に署名捺印を求めたのに原告両名が拒絶したので、適当の解決を得るために再度臨時社員総会を開催することを提唱し、同日午後七時頃前記弁護士事務所において総社員出席の上臨時社員総会を開き、原告両名より会社の解散を提議し被告両名が反対したところ禪野弁護士より原告両名の脱退を勧告したので、原告東井は会社の財産状況からして自己の現物出資した機械類の返還を受け得るものと信じ、原告野崎は残余財産の拂戻を受け得るものと考えてこれに同意し、禪野弁護士より乙第二号証の一の議事録に署名捺印を要求されて原告両名がこれに署名拇印し閉会したこと、並びに被告中村が議事録に基いて原告両名の退社の登記を求めたが受理を拒まれて昭和二十一年十一月二十三日の臨時社員総会において前記役員改選並びに本店移轉の決議の全員一致で成立した旨同月二十五日の同社員総会において原告両名の脱退決議が成立した旨の議事録(甲第七第八号各証原本)を作成して登記をしたことが認定できる。これに牴触する被告本人中村富三郎の供述部分は措信し難く、被告会社の其の余の立証に依るも右認定を動かし得ない。叙上認定に從えば昭和二十一年十一月二十三日の臨時社員総会は会議の目的たる役員改選の可否につき有限会社法第三十九條第四十一條商法第二百三十九條第一項定款第十九條第二十條に定める議決方法による採決がなされずに散会し結局決議としては不成立に終り、又本店移轉は右総会において決議の目的として全然協議表決がなく事実上決議不存在と認むべきである。しかしながら右社員総会が一先ず開かれ且つ役員改選並びに本店移轉の決議成立した旨の議事録作成せられて其の旨の登記を経由したことが前示認定の通りである以上、右各決議の成立を形式上認むべきであると同時に該決議が其の手続において前示法令並びに定款に違反するものというべきである。又同年十一月二十五日臨時社員総会において成立したものと認められる原告両名脱退の前記決議は、有限会社の社員の退社が特別決議によりその持分の全部を社員以外の第三者に譲渡す場合に限り認められるのであつて、社員が自己の持分價額の拂戻を受けて退社する制度を否定する有限会社法第十九條第六十九條第七十條の公益規定の趣旨に違反し無効のものであることは疑を容れない。してみれば原告両名の被告会社に対し有限会社法第四十一條第二百五十二條に依り右各決議の無効確認を求める本訴請求は右認定の限度において正当として認容すべきである。原告等は更に右十一月二十三日の社員総会の社員太田垣徳次郎を被告会社の会計事務担任者と定める旨の決議の無効確認を請求するけれども社員太田垣徳次郎が被告会社の監査役であることは前示認定の通りであつて、右会計事務の担任者の業務内容が会社の会計監査を指称するものとすれば、社員総会の決議を俟つまでもなく法律に規定された監査役本來の職責であり、若し又会社の常務に属するものとすれば有限会社法第三十四條商法第二百七十四條第二百七十六條第一項第三項の規定に牴触し、右決議自体無効というべく、しかも登記事項に該当しないから敢て判決を俟たず如何でも其の無効を主張し得るものと解するのが相当であるから、前段認定の決議と内容可分な右決議をも併せて其の無効確認を求めるにつき即時確定の法律上の利益を有しないこと明かであつて、原告等の右請求部分につき一部棄却を免れない。
次に原告等の被告両名に対する本訴請求につき按ずるに原告両名が被告会社の各取締役たる地位において被告会社に対し社員総会の決議の無効確認の請求訴訟を提起し、勝訴の判決がなされるときは其の無効原因の如何にかかわらず其の既判力は当然社員の全員に及び、取締役監査役である被告両名において該判決の効力を爭うことができないことは有限会社法第四十一條商法第二百五十二條第百九條第一項の規定に徴し明かであつて、たとい被告両名が右決議の有効を主張し被告中村において代表取締役の業務を專行し、これがために取締役たる原告両名が業務の執行を妨げられ且つ社員としての共益権を侵害され損害を被りつつある現在の危害あるときでも一般の保全処分若しくは有限会社法第三十四條商法第二百七十條に準じ仮処分を求めるは、格別被告会社と共同して取締役たる被告中村及び監査役たる被告太田垣に対し前示各決議の無効確認を求めるにつきいずれも即時確定の法律上の利益を有しないこと疑を容れないから、原告両名の右被告両名に対する本訴請求は爾余の点の判断を俟つまでもなくいずれも理由がない。仍て民事訴訟法第九十二條第八十九條第九十三條に則り主文の通り判決する。
(裁判官 南新一)